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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)2352号 判決

控訴人

斯波俊夫

右訴訟代理人

江藤馨

被控訴人

梁庚嫌

右訴訟代理人

安藤武久

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し原判決添付物件目録第二記載の建物を収去して同目録第一記載の土地中別紙図面表示イ、ト、へ、ホ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分を明け渡せ。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張は、次のとおり付加、補正するほか、原判決の事実摘示第二主張欄に記載されたところと同一であるから、これを引用する(ただし原判決二枚目―記録一〇丁―表三行目、同一〇行目および原判決三枚目―記録一一丁―表七、八行目の各「本件土地」とあるのをいずれも「別紙目録(原判決添付目録)第一記載の土地」と改め、原判決二枚目―記録一〇丁―表一〇、一一行目の「(661.15平方メートル)」の次に「(以下本件土地という)」を加え、同裏七、八行目の「本件建物」とあるのを「別紙目録(原判決添付目録)第二記載の建物(以下本件建物という)」と、原判決三枚目―記録一一丁―表八行目の「本件土地のうち」とあるのを「そのうち」と、同表一〇行目の「本件土地の」とあるのを「その」と、原判決四枚目―記録一二丁―表五行目の「本件土地」とあるのを「賃借土地」と、それぞれ改め、同表六行目の「本件土地の」を削る。)。

(一)、控訴代理人は、次のとおり述べた。

(1)、本訴請求は、占有を伴なう賃借権に基づく妨害排除を求めるものであつて、被控訴人に対し明渡しを求める土地(本件建物の敷地)の範囲は、別紙図面イ、ト、へ、ホ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分である。

(2)、控訴人は、競落建物(原判決添付目録第三記載の建物)の所有権を取得した後、昭和四五年七月一八日不動産引渡命令の執行により右建物の引渡しを受けると同時に本件土地全部の引渡しを受けて占有を始めたものである。

(3)、被控訴人が武蔵野自動車工業株式会社から本件建物の譲渡を受けてこれを所有し、昭和四五年八月頃から本件建物の敷地として本件土地中別紙図面イ、ト、へ、ホ、イを順次結ぶ直線で囲まれた部分を占有していることは認めるが、右土地占有について所有者三原金吾の承諾を得ていたことは否認する。被控訴人の右土地占有は、控訴人の本件土地占有を侵奪してなされたものである。

(二)、被控訴代理人は、次のとおり述べた。

(1)、本件建物およびその敷地の状況が別紙図面記載のとおりであることは認める。

(2)、控訴人が競落建物の所有権を取得しその引渡を受けたことは認めるが、その引渡しを受けるにあたつては、執行官から右建物の敷地部分を限定して指示されており、右指示された範囲内に本件建物の敷地部分は含まれていなかつた。従つて右敷地部分につき控訴人が占有をしたことは否認する。

(3)、被控訴人は、昭和四五年八月六日本件建物を買い受けるとともに、その敷地部分の引渡しを受け、以後これを占有しているものであり、右敷地部分の使用について所有者三原金吾の承諾を得ている。

三、証拠〈略〉

理由

一、控訴人が昭和四五年五月一五日強制競売によつて原判決添付第一目録記載の土地上にある本件競落建物を競落取得し、同年七月一六日その所有権移転登記を経由し、同年同月一八日不動産引渡命令の執行により前所有者武蔵野自動車工業株式会社からその引渡しを受けたこと、右会社が昭和三七年八月頃前記土地の所有者三原金吾から前記土地のうち右競落建物の敷地を含む一八〇坪(595.04平方メートル)の部分を建物所有の目的で賃借し、同地上に右競落建物を所有していたことは、当事者間に争いがなく、(原本の存在及び成立に争いのない乙第二号証および弁論の全趣旨によれば、前記会社が三原から昭和三七年八月頃賃借した土地は前記一八〇坪(595.04平方メール)のほかなお二〇坪(66.11平方メートル)すなわち合計二〇〇坪(661.115平方メートル)(これが本件土地である)であつたが、その後昭和四二、四三年頃二回にわたりその一部を三原に明け渡して返還したことが認められる。)右事実によれば、控訴人は、前記競落建物の所有権を取得すると同時にその敷地である本件土地のうち一八〇坪(595.04平方メートル)の賃借権を武蔵野自動車工業株式会社から承継取得したものであり、爾後右建物を所有することによつて右土地を占有しているものということができる。

二、次に、武蔵野自動車工業株式会社が本件土地上に競落建物に隣接して本件建物を建築所有し、昭和四五年八月六日その所有権保存登記を経由したうえ、これを被控訴人に譲渡して、同年同月一一日その所有権移転登記を経由し、現に被控訴人が、本件建物の敷地として本件土地のうち別紙図面イ、ト、へ、ホ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分(一四四平方メートル)を占有していることは、当事者間に争いがない。

三、控訴人は、本件土地の賃借権に基づいて被控訴人に対し本件建物収去および敷地明渡しを求めるものであるが、控訴人が武蔵野自動車工業株式会社から本件土地のうち前記一八〇坪の賃借権の譲渡を受けるについて本件土地の所有者である賃貸人三原の承諾を得ていないことは、当事者間に争いのないところであり、このように建物所有を目的とする土地賃借権の譲渡について賃貸土地の所有者である賃貸人の承諾がない場合、右賃借権の譲渡は、譲渡の当事者間においては有効であるが第三者に対する関係では効力を生じないから、右賃借権の譲受人が第三者に対して賃借権を主張して妨害排除を求めることは許されないものといわなければならない。

四、してみれば、本件土地の賃借権を第三者である被控訴人に対する関係で有効に取得したことを前提として、被控訴人に対し右賃借権に基づいて競落建物収去敷地明渡しを求める控訴人の本訴請求は、理由がないから、爾余の点について判断をするまでもなく、これを棄却すべきであり、これと同趣旨に出た原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないから、民訴法三八四条一項に従い、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(吉岡進 園部秀信 森綱郎)

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